top of page

光芒走りて

7、 
衣擦れと小さな叫び、切羽詰まった喘ぎ声は寝室の中に満ち満ちて、しかし外へ洩れることはなかった。
「…んっ、うふぅ…、いや…! 行くな…」
彼から抜け出るとその担ぎ上げた太腿の内側を甘噛みする。ロイエンタールが鼻を鳴らして首を振るとそのひんやりとした髪が左右に揺れた。彼の中心も震えて雫をまき散らしながら、オーベルシュタインを誘うように揺れる。
それには触れずに後ろのくぼみを外から撫でて、そこが赤くなってひくひくとうごめくのを見ていた。
「…だめ、来い…そこ」
ロイエンタールの荒い息遣い。
「…そこ…? そこがどうした? 言葉にするんだ」
小さな声でその耳にささやいた。
喉仏が動くのが見えるほどロイエンタールは喘ぎつつつばを飲み込んだ。
「中が疼いて…からっぽだ…ドクドクしてる…それ…入れて…」
「…何を?」
さらに小さな声で聞くと同時にその耳に息を吹きかけ、耳朶を食んだ。ロイエンタールは聞こえなかったようだ。
「入れて…!」
すでに注がれたもので滑らかなそこに指をそっと1本差し入れた。ロイエンタールが腰を振って悲鳴を上げたので、指が抜け出た。
「いや…っ、もっと大きいもの! 入れて!!」
「…卿はこの指がいいと言っただろう」
「じゃあもっとたくさん…! 足りない…! もっと強く!」
3本の指を少し折り曲げて一気に入れると、ロイエンタールが両足をつっぱって腰を持ち上げ迎え入れた。その入り口が赤く染まるほど強く早く動かし、内壁を出来るだけこすった。
「…あぁ…!! いや! んん…! もっと奥! 奥!!」
「注文が多いな…。それほど欲しいのならばこちらへ来るんだ…。私より卿の方が上手に入れられるだろう…。起きろ」
制御する間もなく普段決して言うことのないような言葉が溢れ出る。ロイエンタールの手を取って起き上がらせると、自分は枕に背を預け仰向けになった。ロイエンタールが大きく息をついて、今度は彼が足の間に座る。ロイエンタールは一瞬のためらいもなく下になった男の中心を掴みしごき上げたので、オーベルシュタインは大きく息を吐き出した。
「あれだけおれを攻めておきながら、なぜもっと固くなっていない。入れてやらんぞ」
「…一度出したのでな。卿が早くしろと急かすからだ」
だが彼の手の下で根元から的確に刺激されるとたちまち腹に向かって立ち上がった。ロイエンタールがそれを平手でたたいたので、オーベルシュタインは叫び声を口の中に封じ込めた。
「おればかり喘がせるなよ。卿が甲高い声を上げるところを聞きたい」
「…向き不向き…というものがあるっ…からな」
ロイエンタールの手の動きに合わせて息切れしてしまうのは仕方がない。彼の方はすでに余裕で、鍛え方の違いを見せつけている。心臓がドクドクとこの上なく早く打ち、せっかくの彼という存在がありながら、その白い手の中にすべて出してしまいそうになった。
「…入れろ…!」
笑顔のロイエンタールが自分にのしかかって腹の上に座った。オーベルシュタインの手を取り後ろに導く。オーベルシュタインはそこをさぐって広げ、ロイエンタールの手が誘い込んで鋼鉄のような固さの先端がするりと飲み込まれた。
オーベルシュタインが破れそうな心臓を無視して腰を思いっきり突き上げ、ロイエンタールの中に一気に押し入った。ロイエンタールの嬌声が上がった。
「…それ! あ…!! もっと…もっと!! そこ…! 来て!!」
だが疲れ切ったオーベルシュタインがあまり動けないと分かると、当てたい箇所をさぐる様に自分から、うねるようなリズムで大きく激しく前後に腰を振った。自分の腹の上で上下するロイエンタールのその中心が弾むように揺れて、その先端をこちらへ向けていた。
その根元を掬って鼠蹊部を揉みこむと、ロイエンタールは「あ…!」と言って、がくっと砕けるように前に手をついた。さらに中心を絞る様にしごくと、白いものを噴出してオーベルシュタインの腹を汚した。
「…やっ…、ああ…! ふぅん…! あ!! やぁ!」
せいいっぱい腰を突き上げて、彼の一番いいところを攻め苛み、とうとう最高度に熱せられてロイエンタールの中で果てた。

 

執務室に難しい顔をしたフェルナーが入って来た。自分の席に着くと上官の視線に気づいているはずなのに、何も言わずにデスクの上の端末を操作して何かを見ていた。やがて目的のものを見つけたのか、頷いてから立ち上がった。
「閣下、しばしお時間を頂戴できますでしょうか」
フェルナーの一人芝居を横目で見守っていたオーベルシュタインが、自分の前にある書類から目を上げた。
「…何事だ」
「閣下は、内務省社会秩序維持局長官のハイドリッヒ・ラングを覚えておいでかと思いますが」
ラングは旧体制の内務省で要職にあった男だが、帝国宰相ローエングラム公にいち早く恭順の意を示した。ローエングラム公は社会秩序維持局の廃止を考えており、その長官であったラングは現在、官舎で謹慎中ということになっているが、実情は監禁同様の身だった。
フェルナーは他ならぬオーベルシュタインの指示の元に、そのラングについての裏の裏まで探るような身辺調査を続けていたはずだが…。
「…もちろんだ。彼がどうかしたか」
フェルナーは頷いてオーベルシュタインの端末を指さした。
「先ほどちょっとした資料を閣下の元にお送りしました。おそらくこれこそがかのノイラートの正体ではないかと思われます」
オーベルシュタインは眉をひそめながらフェルナーが送付した資料に目を通した。その内容を見てますます眉間に深くしわを刻んだ。
「卿はこの情報をラングの線から入手したのか」
「はい。彼は閣下に認められようといろいろ画策しています。その点から言ってもある程度信頼できる情報ではないかと。もちろん、彼がかつての栄光を求めて、閣下のお命を狙うことで元帥府を混乱に陥れようと、裏で糸を引いていることもありうるわけですが、彼にとって今はまだ閣下がお元気な方が都合がいいわけで」
いつもの副官の口調をきっと目を向けることで黙らせる。フェルナーは目礼したが話をつづけた。
「いかがなさいますか。ロイエンタール提督のこと」
何を聞くつもりかと一瞬憤慨したが、もちろん、彼が言っているのは昨夜の事ではない。オーベルシュタインは首を振った。
「…どうもせぬ。このまま」
「承知しました。ロイエンタール提督を囮にして奴をおびき寄せるなど、提督がご存じならお怒りになるような気がしますが」
「…いや、彼ならばきっと私らしいと言うだろう」
―怒らずに、ただロイエンタールは私を斬ろうとするかもしれん。むしろその方がいいのだ。このまま彼に縛りつけられ、離れなくなるよりは…。
だが、そう望む心はすでに彼に囚われている。自分を憎めばいい。その方が彼を自分の元に留めえぬ事実に諦めがつくだろう。

 

その夜は再び、嵐になった。
強い大粒の雨が降り、風が激しく吹き付ける。明日の朝もこの天候であれば決闘はお流れになるのだろうか? オーベルシュタインには悪天候時の決闘の作法など分からなかった。びしょぬれで泥だらけになって剣を構えるなどばかばかしい限りだ。
明日、ロイエンタールがあの剣を携え決闘に現れる。その時にかのノイラートも現れるのではないかというのがオーベルシュタインの考えだった。決闘の前か後か…。
―ノイラートが狙っているのはオーベルシュタイン家の剣である。だが現在、その剣を(偶然により)所持しているのはロイエンタールである。
それらの事情を知った憲兵は、当然ながらロイエンタールの周辺を見張ろうとした。それをフェルナーに言って遠ざけさせたのだ。地上に降りてからのロイエンタールは上級大将としての衛兵の存在以外は完全に無防備な状態だ。だが、これまでロイエンタールに近づくものはなかった。
嵐が吹き荒れ窓を揺らす音を聞きながら、オーベルシュタインはたびたび浅い眠りから目覚めた。朝、自分がいつも通り起きて朝食をとるころには、すべて片付いているはずだ。眠って起きたらもう自分には手の出しようもなく、ただその運命は決している。
しかし、彼は夜が明ける前にすっかり目が冴えてしまい、その痩せた身体を起こすことになった。自分に今できることは何もないが、憲兵やフェルナーからの報告が上がってくるのをただ待つことは出来そうになかった。
―なんと弱い心か。彼と寝たというだけでこれほど彼の存在に囚われるとは。私はそれほどまでにロイエンタールに執着を感じているのか。
オーベルシュタインはベッドから抜け出すと、しっかり熱いシャワーを浴びて気持ちを落ち着け、身支度をした。重い厚地の軍服とぱりっとした白いシャツを着ると、多少肝が据わった気がするのは不思議だった。これは言ってみれば自分が唯一、上手く操ることが出来る戦闘用の防具なのだ。
自分でお湯でも沸かそうかと思って食堂へ降りてみると、心得顔の執事のラーベナルトがコーヒーを淹れていた。
「おはようございます。申し訳ございません。トーストしか温かいお食事はお出し出来ませんが、せめてコーヒーをと思いまして」
「…おはよう。コーヒーで十分だ」
自分が起き出す様子を聞いていたのだろうか? あるいは主人の落ち着かない雰囲気を感じ取ったのだろうか。窓に薄明かりが差して、気がつくと風はまだ強いが雨はやんでおり、嵐は過ぎ去ったようだった。
「今日は良い天気になりそうでございますね」
「…そうだな」
オーベルシュタインはちらりと食堂の時計を見た。今頃ロイエンタールはボダルトと向かい合っているだろうか。それともまだこれから決闘に向かう途中だろうか?
その時、軍服の胸ポケットで携帯端末が鳴り、ビジフォンを受信したことを知らせた。
出てみるといつになく厳しい表情の副官が現れた。
「閣下、我々はボダルト氏にまんまと一杯食わされましたよ」
挨拶もせずに唐突に言った。
「…何事だ。卿は今どこにいる」
副官が移動中の地上車からビジフォンをかけているらしいことに気づき、オーベルシュタインは言った。
「俺は今、ロイエンタール提督の後を追っています。提督はどちらに向かっていると思いますか」
「決闘場所のアイフェルの森であろう」
フェルナーは鼻で笑って、上官に向かって「チッチッチッ」と舌を鳴らしながら、人差し指を振って見せた。いくらなんでもこの副官にしても常にない人を喰った態度に、オーベルシュタインは眉をひそめた。
「違うんです! アイフェルの森で決闘とは真っ赤なウソ。提督は今エングリッシャー・ガルテンに向かっています。全く正反対の場所です! ハハッ、今現在、ロイエンタール提督をノイラートから守るはずの憲兵隊はここから1時間以上かかるアイフェルの森で待機中ですよ! 彼らはきっと誰も現れないもんだから、ピクニックは延期になったのだと思うでしょうよ!」
「…なに。それで卿は一人でロイエンタールを追っているのか」
フェルナーは早口で答えた。
「念のためにと思って一人だけ、部下をロイエンタール提督につけていたんです。そいつは提督の後から、ノイラートらしき男がつけてきているのを確認しました。俺はそいつの後ろから提督を追っかけています。閣下、俺はそろそろビジフォンを切らなきゃなりません。後のことよろしく頼みます」
言うだけ言ってビジフォンが切れた。オーベルシュタインは立ち上がった。
「ラーベナルト!」
いつの間にか食堂から姿を消していた執事が、戸口から心配げな顔を見せた。
「今、表に地上車を回しています。衛兵の詰所においでの護衛の方々もお起こししてきました。ちょうど宿直の交代時間だそうで、全員で旦那様をお守りするとのことです」
オーベルシュタインは頷いた。アイフェルの森へ向かってしまっている憲兵隊には地上車から連絡を入れよう。エングリッシャー・ガルテンへは近くの隊から憲兵を寄越した方がいいかもしれぬ。ともかく自分に出来ることは限られているにしても、エングリッシャー・ガルテンへ向かわなくては。

 

目次へ   前へ   次へ

bottom of page