top of page

二人の新任艦長

19、

ミッターマイヤーはモニタに映る閃光を確認し、「第4陣、正体不明の相手から攻撃を受けています!!」という報告に慄然とした。

「すぐさまゲアリンデに通信!! 船団の他の船はそれぞれ速やかに前進せよ!! 立ち止まってはいかん!」

ゲアリンデの艦長が通信スクリーンに出た。

「相手は海賊船らしく思われるが、民間船などではない。旧型だがまさしく帝国軍の巡航艦6隻に類似している! 我らは後方に急行する! 卿は船団を率いて前進しろ!!」

「しかし、少佐…」

言う間にも閃光がスクリーンを染めた。オペレータが悲鳴を上げた。

「この船も攻撃されています!! 右の方からきます!」

通信が途切れて、思いがけず至近距離にいたゲアリンデが攻撃方向へ向かうのを目視で見る。ワープで抜けてきた船団はそれぞれ次に来る隊に巻き込まれるのを防ぐため、護衛艦も隊と一体となってアウトした位置から急速発進して前進した結果、お互いにバラバラの位置にいた。そのことが仇となって、各個撃破の危機にさらされることになった。ゲアリンデも果敢に応戦しているが、右往左往する輸送船に阻まれて自在に動けない格好だ。ミッターマイヤーはうろたえる通信士を叱咤した。

「各船長に通信を続けろ! その場にとどまらず、退避せよ!! 応戦は無意味だ!」

言っているそばから、輸送船から海賊船に向かってビーム砲が撃たれた。海賊船は避けるまでもなく、回避システムが攻撃をはじき、今度は海賊船から一閃、レールキャノンの砲が放たれた。ミッターマイヤーは瞬間ひるんだが、輸送船は爆破されず、相手の巧みな砲撃により動力がやられて徐々に沈んで行った。

「こちらに来ます!!」

鈍重な大型輸送船コローナ号が砲撃を回避しようと急激に傾いた。コローナ号の船長が通信マイクをつかんで叫んだ。

「何をしとるか、あの虎の子の砲架はどうした!!」

後方に置いた砲架2台があるスペースから通信を通して悲鳴が上がる。

「レイ将軍がいらっしゃいません!! 俺一人では操作できません!!」

それを聞いたミッターマイヤーは通信用ヘッドセットをつかむと頭にかぶり、戸口へ走り出る。

「大尉!?」

「俺が砲架を操作する!! 第5陣が今にワープアウトするはずだ! 時間わかるか!?」

「あと3分後の予定です!!」

「カウント全船に流し続けろ! ワープアウト確認したら俺に通信頼む! 第5陣と一緒に護衛艦2隻が現れれば、海賊どもと同数になる。それまで持ちこたえるぞ」

第5陣にむけて警戒信号を出し続けろ、とさらに言い置いて駈け出して行った。

 

砲架に駆けつけると、その場にいた航宙士は明らかにほっとした表情になった。ミッターマイヤーはうなずいて相手を砲架の操作パネルからどかせると、動力を立ち上げた。スイッチすら入っていない状態ではどうしようもない。

「レイ将軍はどうした」

「分かりません。そもそも自分はあの日から一度も見ていないです。いざって時はあの人がこいつを撃ちまくってくれるはずでしたよね」

ミッターマイヤーが次々とパネルを操作すると、ようやく自動照準システムが起動した。

「よし、この後は卿でも分かるだろう、とにかく俺の合図で一緒に撃つんだ!」

「はいっ」

海賊船はパニックに陥った輸送船を巧みに孤立した位置に追い込むと、たった砲撃一閃で動力停止に追い込み、強力な牽引ワイヤをいくつも掛け、どういった仕掛けか、この宙域からはじき出すように追い出した。動力が停止した輸送船はなすすべもなくかなりの勢いをつけてこの宙域から外に向かって慣性で飛び出して行った。

ミッターマイヤーはコローナ号への攻撃を牽制しつつ、海賊船が次の獲物を選ぶ邪魔をするように砲を撃ち続けた。

「やつらにまともに当てようとするな! この砲の威力では妨害がせいぜいのところだ。だが、狙いをうまく定めれば、時間稼ぎになる」

ミッターマイヤーは船長にも指示を出し、必ずゲアリンデの後方に位置して突出しないように通信した。コローナ号は船団中でもっとも大型であるため動きが鈍い。無理に逃げようとするより、逃げ足の速い小型船を優先して逃がすよう援護することで護衛艦が自由に動けるスペースを確保しようとした。

『第5陣、まもなくワープアウトです! 10、9、8、7…』

海賊船の周りに突如空間が開き、ゲアリンデがその隙を逃さずレールキャノンを一発撃った。まだ残っている輸送船への影響を考慮したものだが、海賊船は一瞬の間をおいて爆破した。ミッターマイヤーは通信を飛ばした。

「ゲアリンデの陰に隠れろ!!」

コローナ号は爆発の威力に押されてガタガタと大きく揺れ、ミッターマイヤーと航宙士は立っていられず砲の間に倒れこんだ。

「頭をかばえ!!」

そこにオペレータから通信が入った。

『マクシーネがアウトしました…! ああ、海賊船が集まってきました! いっせいにマクシーネに向かっています!! あああ、こんなところに第5陣の船がどんどんアウトしてきます!!』

ミッターマイヤーはずれたヘッドセットを直しつつマイクに向かってどなった。

「警報出し続けろ!!」

『もうずっと出しっぱなしです! あっ、海賊船が一隻の輸送船に向かって…ああああ!!』

オペレータは無意味な叫びをあげてミッターマイヤーの神経を逆なでした。

「なんだ、どうしたんだ、状況を報告してくれ!!」

『輸送船にぶつかって横付けしました! ぴったりくっついてます!!』

「船内に攻め込まれたか!? 第5陣のどの船だ!?」

オペレータが船籍を照会する沈黙の数秒があり、間もなく回答が出た。

『「夢の翼」号です!!』

 

 

bottom of page