top of page

理性の眠り ~4~

ベッドの枠には先日、男がミュラーを拘束した紐が残っていた。お誂え向きとはこのことだ。男の腹に体重をかけて押さえ込みながら、紐を取って右手の手首を縛り上げた。男はミュラーから逃れようと手足を振り回して抵抗したが、不利な体勢のせいでかなわなかった。
男が視線を上げた。その眼差しは剣先のように鋭い。
片手は拘束され、もう片方はミュラーに掴まれていたが、動くまいとする男を無理やり引っ張って、そちらの方もベッドに縛りつけた。真正面を向いてこちらを見た男は、上着は乱れネッククロスは歪んでいた。男は首に巻いたシルクに顎を埋めて上目遣いに睨んでいる。
男の腹の上に尻を落ち着けて動かないようにし、男の上着のボタンを外した。シャツもすべて上から順にボタンを外して、その下の肌を露わにした。
「あいつのものを玩具にした様子はずいぶん手慣れたものだったな。本当はあそこであいつを相手にやりたかったんじゃないのか」
「…馬鹿な…!」
程よい厚みの胸筋と平らで鍛えられた腹筋が徐々にミュラーの目の前に現れた。胸の上に手を滑らせ乳首を両手で摘まんだり引っ張ったりすると、男の胸がひくりと動いた。ミュラーを腹の上から落とそうと男が腰を激しく揺すったので、ベッドが軋んだ。
「そんなに我慢できないほど欲しいのか?」
ミュラーが笑うと動きはぴたりと止まった。男が動けないうちに腹から太腿の上に座りなおした。足をぴったりと閉じさせて再びしっかりと押さえ込んだので、男は容易に動けなくなった。抵抗されぬうちにとズボンのベルトを緩め、留め金を外す。肌触りの良い下着が現れ、その下の肉体の存在を知らせていた。少し盛り上がったそれを下着の上から優しく撫でると硬度が増したようだった。
「反応がいいな。あいつ相手に下着をこんなにしっとり濡らしていたなんて、もったいないことだ。あんなことをして平気だったなら残念だと思ったが。それどころか、興奮して誰かが弄ってくれるのを待ってたんだな」
そう言うと、男はミュラーから視線を逸らして脇を向いた。その表情は屈辱を食んだようだった。
男の姿を見て、ミュラー自身の中心もずっしりと重くなったのが分かった。自分を解放したい衝動と、男のものを暴きたい欲望で二つに引き裂かれた。
だが、男の下着を膝まで降ろしてその肉を露わにさせる方が優った。
それはミュラーの視線の下で無反応ではなかった。根元の陰嚢を揉みこみ、まだ柔らかい性器を筋に沿って上下に擦るとたちまちのうちに息づいた。今にも弾けそうな自分自身は忘れて、艶々として色めく男の性器を一心に擦り上げた。
「…あっ…!」
先端の襞を親指で開くように擦ると男が初めて喘いだ。手を伸ばして再び男の胸の頂きを捻ると、腹が弾けるように跳ねた。その頂きは明かりがなくても濃く色づいて、艶やかにふっくらとしているのが分かった。さらに強く乳首を捻り、擦り上げると、男の中心はまるで鋼鉄のように固くなった。この身体は施せばいくらでも反応を返すようだ。手を離すと腹に向かってゆるりと立ち上がった。
「そういえば、嫌なことをしたご褒美が欲しいと言っていたな。あんたの好きな物をやるよ」
ミュラーは男の胸の上まで進んでその目の前でズボンの前を開いた。中から期待に張りつめた彼自身の肉が飛び出した。その手で擦り上げながら先端を男の口に近づけた。男はギュッと目をつむって口を開こうとしない。
少し振りむいて腹の上で揺れる男の性器に手を伸ばした。それを叩くと細い声が上がった。すかさず開いた口に自分を押し込むと、男が苦しそうに唸った。

男の唇は柔らかく彼の肉に吸い付くようだった。
「可愛い悲鳴だな、そんなにこれが欲しかったのか」

ミュラーは股間から立ち上る快感を断ち切るために、無理に口をきいて男をからかった。
男の固く張り切った性器はミュラーの手の中で膨れ、透明な雫がこぼれ始めた。出入りする肉に擦られて赤くなった唇でミュラーを受けながら、睨み付ける男の目にも涙がたまっていた。その視線は潤んではいるが鋭さを失ってはいない。ミュラーはうねるような動きで腰を押し出して、男の喉の奥まで自分を突っ込んだ。先端が男の喉に当たった感触がして、うめき声が聞こえた。
苦しいのだろう、男が舌でミュラーを押し返そうとする。無意識だろうが、その舌が艶めかしく肉に絡みつき、先端を突かれてミュラーは呻いた。O(オー)の字に開いた唇は中に含んだものを吐き出そうとするかのように動くが、かえって吸い付くようにミュラーの性器が絞られたので、さらに呻いた。
男の腹がびくびくと動く。まさしく愛撫するように動く口の中にミュラーは遠慮なく押し込みながら、男のものから手を離さず、擦り上げ続けた。
「んー! んんー!!」
ミュラーの手に雫が溢れた。無理を強いられた男の方が先に行ってしまったらしい。ミュラーは固いままの自分を男の口から引き出した。ミュラーが腹からどいても男は動こうともせずに、大きく息を継いでいた。汗がにじむ額には柔らかそうな髪の毛が張りついていた。
ベッドから立ち上がってバスルームに行き、救急箱からベビーオイルと避妊具を見つけ出した。帝国軍の装備は完璧だ。
ベッドに戻る前にミュラーは部屋の明かりのスイッチを入れた。
暗かった部屋に急に明かりが灯った。
「あ!! 駄目!」
その声に男の方を見ると、目をぎゅっとつむり、ミュラーから顔を背けていた。眩しい明かりの下で、男の姿は白く輝いて浮き上がるようだった。
上着とシャツをはだけた胸は乳白色で、真っ赤に熟した実がその白に映えた。想像通り、―いやそれ以上に熟れている。贅肉などないまっすぐで力強い脚はすっかり裸だ。その膝を立てて、まだ緩く立ち上がったままの濡れた花蕊を、ミュラーの視線から隠そうとしている。
「…そんなに…見られるのが嫌なのか? 意外に初心なんだな…」
口元も目もきゅっと引き締めたその表情はむしろ無防備で飾らぬ姿に見えた。皮肉そうな目つきを隠した瞼は白く、頬には長いまつ毛の濃い影を映していた。
ミュラーは目を開けて欲しいと思った。男の両頬に手を添えてその顔をのぞき込む。
「…悪かった、ひどくして。だけど、あんたが悪いんだ。俺の神経を逆なでするようなことばかりする、あんたが…」
額から鼻筋に沿って唇を遊ばせ、徐々に降ろしていった。男の唇の上に到達すると、その目がうっすらと開いた。
「…悪かったと思うなら、この紐を外してくれ…。ひどく痛む」
ミュラーはしばし逡巡したが、思い切って男の拘束を外した。信じるか、信じないか、どちらか一つだ。
手が自由になってゆっくりと男は起き上がった。長い脚を折り曲げ、しばらく静かに息を継いでいたが、その脚を胸に引き寄せ膝を立てて大きく開いた。
そして手を伸ばしてミュラーの軍服の前の合わせに手のひらを這わせた。
男の唇がミュラーの開いた首に近づき、熱い吐息がささやいた。
「…来い、ミュラー」
ミュラーは急いで上着を脱いだ。自分が脱ぐのと同時に男の上半身からも残っていた衣類をはぎ取った。何もかも邪魔になるものはその身から遠ざけ、白い身体を抱きしめた。汗で湿った肌は男のものとは思えないほど滑らかで吸い付くようだった。
ベビーオイルを両手から垂れるほど滴らせて男の花蕊を優しく、強く、包み込んだ。そのまま後ろの蕾と根元の間に手をずらし、オイルを揉みこむようにした。男の耳を口に含んで大きな音を立てて食み、耳介に沿って舌で舐めた。感に耐えたような鼻にかかったため息が聞こえ、それはミュラーの股間の肉に直接響いた。
耳を舐める舌とリズムを一つにして、会陰を揉みほぐし続ける。そのまま指を滑らせて男の中を探ると膝でぎゅっと腰を締め付けられた。男の唇を首筋に感じて、思いがけないその感覚が嬉しく、心に染み入った。

 

きつく目をつむった男が左右に首を振りながら喘いだ。
「…いや、だ…もう…、あっちいけ…」
「もういらない? ここはこんなに張り切って、涙を流して、懇願しているのに?」
「…いやっ…」

 

ミュラーが抱き上げると背中に腕を伸ばして、しがみついた。
「…足りない…中…、もっと…!」
「我慢強いと思ったのに、もう降参するのか?」
水音と弾けるような肉体のぶつかり合いに、ベッドがきしむ音。
「…はっ、あぁ…っ…! あ、あぁ…ん!」

 

ミュラーは突然、耳元で大きな音を聞いてはっとして目覚めた。
ぼんやり天井を見ていたが、それは扉が閉まる音だったと気づき、身体を起こした。ベッドにいるのは自分一人だった。慌てて扉に向かったが、素っ裸で外に飛び出すところだった。扉の手前で振り返って窓に向かった。
窓の外はすでに明るく、階下の通りがよく見えた。地上車が何台か走って行った。そのどれかに彼が乗っていたのだろうか?
のろのろとベッドに戻り、昨夜自分がしたこと、彼がしたことを思い返す。また、彼の名前を聞かなかった。連絡先も分からない。
シャワールームで身体を洗うと背中がひどくひりひりした。鏡で見ると、背中が無数のミミズ腫れで覆われていて、さすがにぎょっとした。彼の方にも十分すぎるほどの痕跡を残しているといいが。
再びベッドに戻り、ぐしゃぐしゃになった軍服の上着やシャツをシーツとより分けると、1枚の細長い艶やかな布が現れた。
彼のシルクのネッククロスだった。
恐らく、彼はミュラーを起こさずにこれを見つけ出すことが出来なかった。そしてミュラーのベッドに彼の持ち物を置いたまま、帰って行った。
これは彼と過ごした夜の唯一の名残となりそうだった。

 

My Worksへ   前へ   次へ

This website is written in Japanease. Please do not copy, cite or reproduce without prior permission.

bottom of page