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20、

イゼルローン要塞内は常に気温、湿度共にオーディンの春を基準に保たれており、過酷な宇宙から戻ってきた兵士たちが急激な環境の変化によりストレスを感じることがないようになっている。だが、このようにうららかな陽気ではかえって戦意を喪失しそうだ、とベルゲングリューンは思った。
3日間の演習で総司令官の代理を務めたベルゲングリューンは、意気揚々とトリスタンから降り立った。先日まで、総司令官『本人』として指揮をした場所に、その代理として座を占めるのは奇妙なことだった。総司令官のみならず二人の大将も直接演習の指揮をとらずに要塞に残りそれぞれの代理に任せた。ベルゲングリューン中将とは本当に信頼に値する人物か―。弾劾に等しい会議のすぐ2日後に開始された演習において、全体の統括を任されたベルゲングリューンに不信と疑いの目が集まったのは致し方のないことだったろう。だが、蓋を開けてみれば複数の艦隊を指揮した中将の手腕の手堅さは誰もが認めるところとなり、妬みを含んだ噂話も演習が終わるころには終息した。
演習から戻った艦隊の将兵を総司令官と二人の司令官たちは並んで出迎えた。総司令官ロイエンタール上級大将は、自身の参謀長に代理を任せることで今回の騒ぎに終止符を打った。当初、総司令官の判断にも疑問の声が上がったが、無事演習が終了した今ではあの告発文は全くの誹謗中傷にすぎず、総司令官の人を見る目は確かだと誰もが認めた。
参謀長を出迎える総司令官の鉄面皮とも言えるポーカーフェイスは、常のように何の感情も表さない。演習へと出立する前日、少しくらいは二人だけで会えるだろうと心待ちにしていたのに多忙のため叶わず、兵士が結婚した翌朝、花嫁を残して出征する時のような気持ちをベルゲングリューンは味わったのだった。
最後に彼と個人的に話をしたのは4日も前なのだ。総司令官の表情は冷静かつ無感動だが、ベルゲングリューンには激しい情熱を秘めたものに見える。その彼の瞳と出会っただけで、戦から戻って来た花婿としては心が浮き立ち身体が熱くなるのは当然だった。
総司令官及び二人の司令官は演習の成功を喜んだ。総司令官は通常通りそっけない態度だが、何事も公平なルッツ提督などは難しい状況で艦隊を指揮したベルゲングリューンを特に褒めた。演習の参加者たちは明朝までの休暇を与えられた。と言っても、現在のイゼルローンには娯楽も何もないから、総司令官の副官、レッケンドルフ大尉が食堂のコックたちを指揮して帰還した者たちに飲食物を提供する準備をした。
即席の宴会の間、彼と一緒に過ごせるだろうと喜んだのも束の間、演習中要塞に残った者は通常通り任務を遂行するらしい。宇宙のかなたでは元帥閣下の軍が同盟軍と戦っているのだ。要塞をあげて遊びほうけるわけにはいかないのは当然だった。
ベルゲングリューンは今、目の前に芝生が広がる公園のベンチに座って、イゼルローン方面軍の将兵が思い思いにビールを飲み、バーベキューの焼き網(同盟軍の遺物)から串焼きの肉を手にとっては頬張る様子を眺めていた。のんびりとした雰囲気は何も知らない者が見たら、ここが戦場だとは思わないだろう。だが、この春の祭りのような穏やかな空気の中には、確かに次の戦への期待と高揚感が混じっているのだった。
彼は今日もいつも通りの時間まで執務を続けるだろうか。彼の顔を見に行きたいと思っても、部下や同僚の手前、早々に宴会を抜け出す訳にはいかないのだった。
イゼルローン要塞に夕闇が落ち、公園内に明かりが灯った。バーベキューに肉や野菜が追加され、ビールがさらに運ばれてきた。演習中要塞に残っていた者たちも今日の勤務が終了し、夕食を取りに祭りの場にやって来たようだ。どこからかランタンまで持ち出されて、ますます祭りのような雰囲気になった。方々で笑い声が起きる。
これで突然敵が攻めてきたらどうなる、などと思ったが、皆これが束の間の休息だと知っている。目くじらを立てては彼らに休暇を与えた司令官たちの配慮にケチをつけるようなものだ。だが、その総司令官はどこにいるのだろう。彼は戻って来たベルゲングリューンに愛想笑いはおろか、目配せすらしなかった。宇宙にいる間、帰還した時に彼があの香りを身にまとっていてくれたら、などと夢想して悦に入っていた自分が馬鹿らしい。別に彼にとってこの4日間のベルゲングリューンとの別離は苦でも何でもなかったのだ。
うつうつとしていたベルゲングリューンは苦笑してビールを飲みほした。彼の真心を疑うなどあまりにおこがましいが、何でも彼のペースに合わせ、すべて彼の希望を優先するのも無理があるのだ。ベルゲングリューンが本気で彼の恋人になろうとするならば、彼に譲るばかりでなくお互いに譲り合わなければ。
要はベルゲングリューンは彼の元に飛んでいきたいのに、彼の雰囲気がそうさせてくれないのだった。
ふと、気づくと目の前にロイエンタール上級大将の従卒の少年がいて、ベルゲングリューンに敬礼した。
「ベルゲングリューン中将閣下、こちらのメモをお渡しするように言いつかりました」
驚いてメモを受け取り読む。期待に満ちた顔でこちらを見返す少年に頷いて言った。
「特に俺から返事がなければ卿の本日の任務は終了だとここにはある。返事はないから後は自由にすると良い」
少年は顔を輝かせて、それでもよく訓練された従卒らしくきっちり敬礼をした。
「はい、ありがとうございます。失礼します」
ベルゲングリューンが頷くと、少年はとたんに「ひゃっほう」と叫んで、ランタンが釣り下がる飲み物のテーブルに走って行った。小柄な姿がいくつか見えて、他の従卒仲間もそこにいるのだと分かった。
ベルゲングリューンは今は怪しからんなどと思わなかった。この命令を出した人物の思いやりに微笑みながらベンチを後にした。
記憶を辿りながら街灯がともる人影のない閑散とした道を行くと、目当てのバーが見えて来た。誰もいないはずの店内は明るく、カウンターにロイエンタール上級大将の衛兵隊長がいて、ビール瓶の蓋を開けていた。店内のいくつかのテーブルにはサンドイッチやバーベキューの串焼き肉が並んで、数人の衛兵がビールを片手にそれらを食べていた。彼らはやって来たベルゲングリューンには見向きもせず、店内にある同盟軍の遺品のソリビジョンで映画を見ている。時々笑いが起こるところを見ると、気楽にするようにと言う指示が出ているようだった。
「こちらへ。参謀長殿」
あくまで深刻な表情の衛兵隊長が手招きして、カウンターの中へ招じ入れた。カウンターの奥の扉を開けるとその先に階段があり、隊長が指さすのに従って上って行った。やがて最近オーディンで流行っている音楽が店内から聞こえて来た。ソリビジョンは音楽映像を流しているらしい。口笛や手拍子まで聞こえてますます祭りの様相を呈してきた。
階段の上には廊下があって奥に明かりが見えた。念のため突然の襲撃を用心しつつベルゲングリューンは先を進んだ。
奥の部屋の扉を開けるとそこに彼がいて、ベッドに腰掛けて退屈そうにビールを飲んでいた。ここでも宴会の出席者を待つかのように、テーブルの上に料理とビールが山積みされていた。
「遅かったな」
そうではないかと思ったが、ベルゲングリューンはさすがに気が咎めた。
「閣下…! こんなところでお一人で…!」
「お前がいるから一人ではない。そもそも二人だけになれる場所がないからここに来たのに、他に誰か連れてくるはずがない」
「衛兵たちが何というか…」
ロイエンタールは肩をすくめた。
「衛兵隊長には参謀長と内密の重要な話があると言ってある。彼らのことは気にしなくていい。自然な様子で騒げと言ってあるから、喜んでそうするだろう」
彼が立ち上がって、ベルゲングリューンはようやく気づいた。彼はシャツ1枚羽織っただけで、裾から裸のまっすぐな脚がほの白く輝いていた。
そして、忘れもしないあの濃密な香り。
両腕を緩く広げて、彼が言った。
「来い。接吻しろ」
飛び掛かるようにしてベルゲングリューンは恋人の命令に喜んで従った。

ぴったりと寄り添いながら腕がベルゲングリューンに柔らかく絡みついてきた。彼の身体は熱く、そのしなやかな肌触りからシャワーを済ませたばかりだと分かった。少し手を伸ばすだけで彼の素肌に触れることが出来、手のひらの感覚だけでベルゲングリューンは天に昇ってしまいそうになった。
唇を離さず舌を出し入れし、彼は自らシャツを手早く脱いで何も身にまとわぬ姿になった。彼の花蕊はすでに興奮に立ち上がり、ベルゲングリューンの注意を引こうと揺れていた。手を伸ばして優しく撫でると、彼が嬉しそうに鼻を鳴らしベルゲングリューンの口の中にため息を漏らした。
彼にベッドに引き倒され、手が伸びてきてズボンの前が開けられた。下着を探って中から張りきったものを取り出すと、彼はちゃんと見られていることを確かめてからそれを口に含んだ。
「あ…っ、駄目です!」
手を添えてしごきつつ口に含んだまま、なぜ駄目だと言わんばかりにじっと見つめ返して来た。たちまちのうちに膨らんだベルゲングリューンの鋼鉄は彼の口には大きすぎて見え、それでも美味しそうに頬張っている。頬の内側や上顎に先端を擦り付けるので、こらえきれずに先走りが溢れて彼の口を汚した。彼は真っ赤な舌を出してそれをぺろぺろと舐めて満足そうにしている。
ベルゲングリューンは身もだえしながら、何とか軍服の上着を脱いだ。広げた脚の間にいる彼を蹴飛ばすことが出来ればズボンも脱げるだろうが、彼に好きなようにさせたまま辛うじて尻からずり下ろしただけだ。一糸まとわぬ素裸の彼とまだ着衣の自分という構図はあまりに背徳感に満ちていて、そのことに気づいてはち切れんばかりになった。
彼は舌を出して一心にベルゲングリューンの灼熱を舐めている。その嬉しそうに舌なめずりする様子はあまりに淫らで、昼間の彼の冷たさとかけ離れ過ぎている。ミルクを舐める猫のようなその赤い口元に最も注意を引かれるのは確かだが、彼の細い腰の向こうの白い尻が何度も持ち上がるのが気になって仕方がない。
よく見ると彼の片手が両足の間に伸び、自らの花蕊に手を掛けていた。
「ご自分で触らないで…。私にさせてください…」
「ん~、ん」
ちゅっと先端に吸い付いてからすぽんと音を立てて鋼鉄を解放すると、彼は目の前で膝立ちになった。輝く瞳でベルゲングリューンを見下ろし、片手で自分の胸を撫でて乳首を捻った。小さく口を開けて誘うように喘ぎ、空いた手で自分の立ち上がった花蕊をしごきだした。
ベルゲングリューンは彼の色違いの瞳と見つめ合った。彼のため息交じりの荒い息づかいに、ベルゲングリューンの不規則な呼吸が混じり合う。彼の先端が紅潮して膨れ、白く濁ったクリーム状のものが噴き出す。それが顔をめがけて飛んでくるに及んで、ベルゲングリューンは目の前の白い身体をベッドに押し倒した。ほとんど打ち払うように彼の手をどかして、くっきりと粒の立った乳首を親指で押しつぶす。びくんと白い身体が飛び上った。
「はぁ! あぁ…!」
まっすぐな太腿を押し開いて花蕊を喉の奥まで口に入れると、高らかに彼が鳴いた。下の階にいる衛兵に聞こえるのではと一瞬胸が轟いたが、途端に外でドンドンと花火が打ちあがった。これも総司令官閣下の指示だろうか、と絶好のタイミングに笑い出した。
「もっと…! ハンス! もっと…!」
ねだられて驚いたが、彼が手を取って下方の赤い蕾に導いたので、ベルゲングリューンはハッとして彼の手を振り払った。
「駄目です…! あなたを傷つけてしまう…! そこには…!」
「ばかハンス…! 欲しいんだ…!」
「ここは痛いんでしょう…」
彼は乱れた息のまま耐えかねたように笑い出したが、口にした言葉は泣くようなか細い声でほとんど哀訴に近いものだった。
「この間…、お前に弄られてから、あの時のことが忘れられない…。あんないやらしいお前をもう一度見たい…」
彼の言葉の意味がほとんど分からず、ベルゲングリューンの頭の中は完全な真空状態になった。彼は大きな息を吐いて、切なそうな目を向けて来た。
「…一度だけ…」
自分自身の弾けそうな欲望にもかかわらず、完全に神経が研ぎ澄まされて、彼の身体だけに集中できるのは不思議だった。脳みそは働きを停止し真っ白だが、第六感のようなものでサイドテーブルにオイルの瓶があることに気づいた。彼の教えを思い出して指に滴るほどたっぷりオイルを取り、こぼれないうちにと彼の蕾に擦り付けた。その赤い蕾は震える指先に吸い付き、接吻するように柔らかくまとわりついた。
これまでにない欲情の高まりゆえか恐怖ゆえか分からなかったが、静止することは不可能なほどに手が震えた。
「…か、閣下…」
彼は肘をついてわずかに上体を起こすと、ベルゲングリューンのひどく震える手に気づき少し不安になったようだった。途方に暮れたように見つめ返す表情が今までに見たことがないほど無防備で、ベルゲングリューンは自分を叱咤した。
―こうも俺を信頼してくれる方を不安にさせてどうする…。
思い切って指を引き抜いて有無を言わさず抱き上げ、驚く彼の尻の下に枕を置いた。この体勢ではこちらが見えなくて不安だろうが、こうすると彼の蕾に触れやすい。どうやらいろいろ考えながら進める必要があるようだった。
「大丈夫です…」
深呼吸して再びオイルを指から滴らせながら蕾に触れ、今度はゆっくり中へ回転させながら侵入していった。彼の呼吸が明らかに大きくなる。じっと彼の瞳を見つめながら指を進めると、その表情から痛みを感じていない、大丈夫だと分かった。時間をかけて指をすっかり通路内に入り込ませた。
指先で通路の壁を探るようにトントンと叩いて探ってみると脈打つ何かの感触があり、彼が「あっ」と言って目を見開いた。再び優しく叩くと彼が首を振って激しくいやいやをして、か細い鳴き声を上げた。記憶にある声―。
「仔猫ちゃん」
思わず口をついて出た言葉に潤んだ瞳で睨み付けられたが、さらにリズムを付けて軽く連続で叩くと、途端に仔猫の鳴き声が漏れた。彼の頬がみるみる真っ赤になる。
「…ん…! …いや…!」
顔を隠そうとする手を片手に取り、握りしめると激しく握り返された。彼の中で微かな優しい問いかけを続けると、仔猫はさらに鳴き出した。
「…あぁ…いや…あぁあ」
とうとうその輝くような瞳から涙がこぼれ出した。何度も慈悲を乞うようにか細く鳴き、腰は逃げるように前後に動いたが、痛がって恐怖を感じているせいではないのは明らかだった。いやと言いながらも快感を得ている証拠に花蕊はますます張りつめて膨れ上がり、とめどなく白い雫を吹き零している。伸びて来た彼の手に気づいて自分で触らせまいと、ベルゲングリューンは彼の膨張した先端を無骨な指で弄った。蕾の奥でゆらゆらと動かす指が優しい愛撫であるのに対し、花蕊はむしろ強めに刺激した。
彼が喘ぎながら唇を何度も舐めて口をぱくぱくと動かしているので、一度すべての手を止めてから彼の唇を強く吸った。舌の根が抜けるほど彼の舌が絡みついて引っ張るので、しばしぎゅっと抱き合って互いの荒々しい息づかいを交換した。
彼の唇をかじり舌を擦り合わせる合間に、うわ言のように可愛い可愛いと言い続けた。二人の間で暴れまわる2つの灼熱を手に取り合って握り締め、じっと互いの目を見つめた。
彼の中に入れていないのに、彼の口からは可愛い仔猫の鳴き声がした。
「仔猫ちゃん、また鳴いて…」
彼の唇をかじりながら優しく頼むと、彼はいやいやをしながらも小さく鳴いてくれた。二人の手の中に急に白いものが飛び散ったことから察するに、「仔猫」と呼ばれるのが嫌ではないらしい。
もっと彼の可愛らしい反応を見たくて静止する前に思い切った言葉が口から出た。この仔猫はとてもいやらしい、鳴き声は淫らなのがとても可愛い、と気づけば彼の耳に向かって囁いている。彼はいやいやをして再び小さく鳴いた。
ついに彼の花蕊からはとめどなく白い液体が溢れて、ベルゲングリューンの軍服を広範囲に汚した。

要塞内は新たな戦いへ向けての活気で満ち溢れていた。イゼルローン方面軍のみで敵の首都を叩くという展望にレンネンカンプ大将他、多くの提督が期待を膨らませていた。さかんに哨戒や演習に出かけて、要塞と回廊周辺はミツバチの群れのように艦船が行き来した。
「恐らく、現状ではハイネセンへの侵攻は難しいだろう」
ロイエンタールは副官も同席する会議の席上、参謀長との会話の中でそう言った。
「レンネンカンプ提督はまだその可能性を現実のものとして、張りきっておられます。いつか閣下が本気ではないと気づいてまた猛反発を起こすのでは」
ベルゲングリューンの言葉に、「卿は心配性だな。それにおれとしては本気で狙っているつもりだ。しかし、すべてはタイミングだな」、とロイエンタールは笑った。
同席するレッケンドルフ大尉を横目で見て、二人のことをどこまで気付いているのだろう、とベルゲングリューンは不思議に思った。上官の戯れ交じりの意見が参謀長にぶつけられることを、この副官は不審に思いはしないだろうか。彼の言葉と向けられる視線の裏に、ベッドでの愛撫と夜の秘密の囁きが隠されているような気がするのは、それを知るベルゲングリューンだけなのだろうか。
素面で彼の中に指を潜ませた経験により、それは痛いだけの場所などではなく、注意深さと愛情をもってすれば当事者どちらにとっても快感を得られるものらしいと知った。まだ指一本入れるのが精いっぱいだが、彼はベルゲングリューンが恐怖を克服するのを待ってくれている。普通は入れられる方が怖いんだ、と彼は笑った。とは言え、彼があのように可愛らしく蕩けるのをたびたび目にしては、自分の恐怖などは吹き飛んでしまう。
彼が愛おしく、長く離れているのはつらい。彼も同じ気持ちだと信じているのには訳があった。総司令官と同室で執務中に書類を読んでいる時、ふと集中が途切れて顔をあげると彼と目が合うということが再三あった。目が合って彼は視線を逸らすが、心なしか頬が赤らんでいる。部屋に二人だけならばすぐに彼のそばに行き、その火照った頬に手を添えて唇を奪う。副官などが同室しているならば、目配せしていったい何を考えてそんなに見つめていたか後で教えてもらいますよ、と心に呟いて書類に戻る。そんな時、わざとそっけなく彼から視線を外すが、本当は誰に見つかろうとかまわずに彼を腕の中に閉じ込めてしまいたい気分だった。
周囲の目を気にしつつも、彼の元を毎夜訪れずにはいられなかった。衛兵たちは参謀長が夜ごと忍んで来ることをどう思っているのだろう。幕僚たちは何か感づいているのだろうか。誰も疑いの言葉など述べず、総司令官と参謀長の様子を見て二人は息がぴったりだと言って喜んだ。
彼と親しい今の立場に甘えていると思われたくないと、ベルゲングリューンは毎日精力的に任務に励んだ。司令官の代理としてたびたび視察をして要塞内の整備に努め、部下の参謀たちを集めてブレインストーミングを繰り返した。トレーニング場で参謀長の姿を見かけるのは珍しい事ではなかった。
少し休暇を取られては、とレッケンドルフまでもが心配顔で言うようになったある夜、とうとう恋人の愛撫を受けながらぐっすり寝てしまい、翌朝真っ青になって飛び起きるという事態になった。ベッドから蹴り出されても致し方ないところだったが、彼は何も気にしない。それどころか、恐縮するベルゲングリューンに優しく笑って無理をするなと労わった。


そして、遠い戦場のローエングラム元帥から、惑星ウルヴァシーへの招集の命がイゼルローン要塞にもたらされた。
 

​面影を抱きしめて

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