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22、

ベルゲングリューンはいったん艦橋へ立ち戻り報告を受けた。当直士官の固い言葉遣いは耳からすり抜けていきそうになったが、辛うじて集中して注意深く聞いた。報告の内容から総司令官はこの後も休み続けて問題ない、と判断出来た。わざわざこのようなことをするのも、総司令官の参謀長としての責務を重くとらえているからと言うより、この後絶対に邪魔されたくないというだけだな、と苦笑した。
彼の部屋に戻ると室内はすでに暗く、寝室の常夜灯の灯りのみを頼りに室内を進んだ。もうベッドでぐっすり眠っているのだろうか。それは残念ではあるが、疲れ切った彼がようやくしっかり睡眠をとることにしたのなら喜ばしい―。いや、偽善はやめよう、残念どころの話ではない―。
だがそこに白い手が伸びてきて驚く間もなく寝室に引きずり込まれ、彼の唇が唇に噛り付いた。彼の腰に手を回すとバスローブのベルトも結ばず羽織っただけで、ベルゲングリューンの遠慮を忘れた手に惜しげもなく素肌を晒した。吸い付いては噛り付き、角度を変えて何度も口と口を合わせる。その間に彼が器用にベルゲングリューンの軍服をはぎ取り、シャツをズボンの履き口から性急に引き出した。ところがシャツの下にさらに綿の肌着を着ていたので、彼は腹を立てた。
「まさか、下着も着ずに艦橋へ行けと…?」
ベルゲングリューンの口の下で彼の唇が笑いに震えた。
「ああ、そうしたら皆の前ですべてを晒す参謀長の想像をして楽しんだのに」
とんでもないことを言う人だ。はしたない口を口で塞いで彼の胴を掴むと、親指で胸の粒を潰すようにして転がした。口の中で彼の呻き声がこだまし、それは直接ベルゲングリューンの鋼鉄に響いた。
ズボンの下はもちろん下着を付けていたが、布地の拘束などは意味をなさぬほどすでに張りつめている。彼の手が前を開けて忍び込んだとたんに我慢できずに飛び出した。その勢いの良さに嬉しそうに笑う彼が軽く叩いたせいで、それは弾むようにして腹をめがけて反った。彼に任せていたらこのまま手の中でもてあそばれて、疲れ果ててしまう。
「どうか大人しくしてください。ベッドに寝て」
「いや
だ」
焦りのため強い口調になってしまったのが気に入らなかったのだろうか、はっきり反対された。彼に胸をドンと突かれ、背中と後頭部を壁に打ち付けるはめになった。その足元に彼が膝をついてベルゲングリューンの鋼鉄を両手に持った。
「おれが先だ」
そう言って喉元深くまでベルゲングリューンを受け入れた。歯を立てないように口をすぼめてぎゅっと引き絞り、その狭い輪に鋼鉄を通す巧みさに思わず大きな呻き声をあげた。
「もっと呻け―。お前ときたらおれにばかり…。お前のいやらしい声をもっと聞きたい…」
彼が本気になったらベルゲングリューンなど何度も喘がされてしまう。ズボンを降ろした裸の尻を彼の手にしっかりと鷲づかみにされ、彼の顏を腰から引き剥がすことが出来ない。せめて喉の奥に思い切り突き入れないように、何とか正気を保つので精いっぱいだった。
柔らかい髪を手の中に感じながら彼の頭を押さえて、彼の口が動くリズムに合わせて緩く腰を動かす。ベルゲングリューンの呻きと彼の鼻歌が混じり合い、早まるテンポに合わせて鋼鉄が膨れ上がって彼の口の中に液体を放出した。鼻歌は苦しそうなものになったが、彼は両腕でしっかりとベルゲングリューンの尻を抱きかかえ、離れようとする力に抵抗した。逆らえずにとうとう気持ちの良い彼の口に突き入れてしまった。体液のほとんどを飲み込んでしまってから、大きな息をついて彼は顔をあげた。
自分の抵抗力のなさを情けなく思いつつ彼を床から引き上げると、大人しくされるままに胸に寄り掛かってきて満足そうにため息をついた。
「閣下…、お気持ちは嬉しいのですが…、どうか…」
「…嬉しいならそれでいいだろう。お前の身体の方が遠慮知らずにすぐ反応する。その方が好きだ」
そんな風に彼が言うのを聞くのは初めてだったので、ベルゲングリューンはたちまちのうちに回復した。彼はくすくす笑って伸び上る鋼鉄を優しく撫でた。笑いながらベルゲングリューンの腕の中から離れると、ベッドに枕を並べて背中を預けた。
彼は少しはにかむように微笑んでベルゲングリューンを見上げた。一糸まとわぬ姿で胸の真っ赤な粒を弄り、形の綺麗な両方の膝を開くという扇情的な格好だが、ひどく無邪気に見えた。
飛び掛かかって彼に食らいつくような真似はするまいと、ベルゲングリューンはゆっくりベッドの上で彼の脚の間に膝を進めた。
まず、彼の揺れる花蕊に優しく接吻をして挨拶をすませると、オイルを手の中に滴らせて、期待に息づく彼の蕾をそっと撫でた。彼の浅い息づかいが聞こえて、ベルゲングリューンは自分もまた弾む息で指先を食む蕾を覗きこんでいることに気づいた。
「…あっ…」
彼の腰が反射的に跳ねて、危うく通路内に指を突き立てそうになりどきっとする。酔っぱらって初めて触れた時から、指一本とは言えもう何度も受け入れているのに、彼はひどく緊張している。ベルゲングリューンもあの時と同じように手が震えていた。
指の根元を柔らかく締め付ける蕾を優しく押したり揉んだりしながら、彼の呼吸に合わせて出し入れした。オイルを継ぎ足してから人差し指と中指で再度、そっと蕾に触れてみる。指が増えたことに気づいた彼が息を飲んだので、急いで花蕊に手を添えてなだめるように擦った。その慰めに気を取られてか、締め付けはきついながらも2本の指を受け入れた。
とうとう3本の指を蕾に侵入させたときには、あまりの緊張にベルゲングリューンのものは脚の間でうな垂れてしまっていた。だが、彼の息づかいはますます早くなり、手は尻の下でぎゅっとシーツを握りしめて眉をひそめている。
花蕊の先端を口に含んで舌で弄って緊張する彼の気を引いてから、通路内の一点にそっと触れた。途端に彼が息を飲み小さな声をあげた。ゆっくりと指を蕾の縁に沿ってぐるりと回し、次いでリズムを付けて通路の中を叩き、彼のか細い喘ぎがはっきりしてくるのを確かめる。彼の声に注意を向けて集中している間に、蕾が柔軟に解れるのと歩調を合わせてベルゲングリューンのためらいも溶けていった。
彼のため息交じりの小さな喘ぎと、ベルゲングリューンの荒い息継ぎだけが部屋の中に響いた。
ふいにぎゅっとつむっていた目を彼が大きく開いた。色違いの瞳が切なげに輝いて脚の間からベルゲングリューンを一直線に見つめた。
今こそその時だと分かった。
彼の瞳の強さに鋼鉄は当初の熱さを取り戻した。半ば焦りつつ避妊具を取り付けて、いざという前に危うくオイルを垂らすことを思い出した。それから彼の膝に手を置くと、大きく息を吸って腰を引き狙いを定めた。
先端が蕾の扉を叩いて、警戒厳重な関門をこじ開けるようにして通って、中へ…。
「…やあぁぁ…」
ため息のような彼の細い喘ぎがベルゲングリューンの耳に注がれた。蕾はあれほど解したにもかかわらずベルゲングリューンの先端を締め付けて通すまいとするので、あまりのきつさに気が遠くなりそうだ。腰から広がる快感も相まってとても奥まで進むまいと思われた。だが、彼が大きく熱い息を吐いて両脚をさらに開いた途端すっと道が開き、気がつけば彼の奥を突いていた。
「あぁっ…!」
彼の悲鳴のような可憐な声がベルゲングリューンを正気に戻した。心臓が激しく轟く中、少し腰を引き神経を集中してそれから鋼鉄を奥へ進め―。
「んんっ…、ふあっ…、ああぁん…!」
彼の膝の下に腕を差し入れると尻が持ち上がって通路をまっすぐ進みやすくなった。彼の顔が近づき潤んだ瞳と目が合う。綺麗な唇からは絶え間なくか細い声が喘ぎとなってこぼれ始めた。彼の温かくて狭い通路に閉じ込められて、こんなに苦しいほどの気持ちの良さは経験したことがない。リズムを早めて侵入と退避を繰り返すと、通路がびくびくと震えて鋼鉄をさらに締め付けた。
周囲の空間は真空のようになりそこには二人だけが存在していた。互いの息づかいと同じリズムを刻む鼓動が世界中に響きあう。彼の潤んだ瞳に怯えや恐怖はなく、目の前の男ただ一人を夢見るような表情でじっと見つめている。ベルゲングリューンの目にも彼の火照った頬や汗のにじむ滑らかな額、そして色違いの瞳だけが映っていた。熱中する二人の姿のみが宿る四つの瞳。彼のわずかに開いた唇を少しかじると彼が小さな鈴の音のような明るい声をあげたので、我知らずにっこりすると彼も微笑み返した。
二人して喘ぎながら微笑みをかわす。
―ああ、オスカー! 俺のオスカー!
身体中いっぱいに彼の名前が祝福の鐘のように響き渡った。まるで脳震盪を起こしたかのようにめまいを感じながら、熱い彼の中を行き来しつつ、ああ、今なら彼と完全に一つになれると思った。彼と微笑み合い共に熱い身体を重ねる、この一体感のせいで不思議なほど満ち足りた気分になる。こんなに彼とすっかり一緒ならば彼の心の奥底まで感じ取れるに違いない。彼の過去の苦しみも、痛みも、それによる現在の彼の恐怖も、重なり合う肌を通して分かるようになるだろう。
そのようにして、すべてこの身体に引き受けてしまおう。


そうすれば彼に成り代わってその苦しみをすべて受けることが出来る。


急に世界が暗くなり、喉が塞がって真綿で締められたように息苦しく、意識が遠ざかった。
ただ皮膚にぴったりとくっつく彼の身体のみが実体として感じられ、他には何も見えず、聞こえなかった。
二人の鼓動が同時に大きくひとつ打ち、砲火の轟音に似た音が響き渡った。
「―いやだ! ハンス!! 駄目だ、駄目だ!!」
彼がしがみついて大声で叫んだ。宇宙空間のような闇に囲まれて周囲はぐるぐると急激に回転し、歪む景色の中でただ一つ揺るがないものと思っていた彼の細面の白い顔もまた歪み、輪郭が崩れてぼやけた。
ベルゲングリューンは荒げた声で叫んだ。
彼の陶器のように白く滑らかだった頬は日に焼けて荒れ、顎は無精ひげに覆われ、ごつごつした角ばった輪郭に変化した。
それは純粋な恐怖を呼び起こした。
「駄目だ、駄目だ!! 戻れ、戻ってくれ! オスカー!!」
ベルゲングリューンも彼と同じ言葉を繰り返した。彼の身体を渾身の力で抱きしめ、そうすれば元通りの彼を取り戻せるとばかりに強く引き寄せた。彼の中に入り込んだままの鋼鉄が興奮ときつい刺激に耐えかね、膨れ上がって体液を噴き上げた。
彼の悲鳴が聞こえて、締め付けうねる彼の中に何度も何度も鋼鉄を叩きつけていたと気づいた。だが、生存への恐怖に本能の暴走を止めることは出来なかった。ただひたすら彼の名を叫び続け、腕に抱きしめる身体が彼のものであることを確かめた。彼があげる悲鳴のような声もまた、何度も「ハンス! ハンス!」と呼びかけ、互いが真に互いであることを確認し続けた。彼らの身体と意識が閃光となって真っ白に輝いたかのように思えた時、二人とも同時に叫んで、その身体は最高に熱せられて真空の中に飛び散った。

彼らは意識を取り戻した時、長い間互いの顔をじっと見つめて、目に映る者が確かに思った通りの相手であるかどうか確かめた。同時に愛しい顔に触れ、触れる手も触れた顏も間違いなく自分たちの手と相手の顔であることをようやく確信すると、安堵のため息をついた。
「ばかハンス…。今度はおれのせいではないはずだ。お前はなんて時に何を考えていた?」
ベルゲングリューンは彼の頬を何度も撫でて、その滑らかな白い肌が確かに彼のものであることを確認した。ほんの数日前までそうだったように、彼が『ベルゲングリューン』に変化するところを見るのはおぞましいことだった。まさかまた、彼の魂と身体を交換するような事態に陥るとは…。
「私はただ、あなたがとても愛おしくて…。あなたがここのところずっと何かに苦しんでいるのを見て、代わってあげたいと…」
「なんだと?」
ベルゲングリューンの言葉が途切れて小さくなったので、彼は氷の刃のような低い声で咎めた。
「あなたの苦しみをすべて引き受けたいと…。あなたに成り代わればそうすることが出来ると…」
「馬鹿な…。そんなことを考えるなど…」
彼が呟きつつベルゲングリューンの胸に顔をうずめたので、彼の頭を撫でながら反論した。
「でも、馬鹿なことではないです。あなたが子供の頃、誰かに成り代わりたかったらしいことをずっと考えてた。出来るものなら子供の頃に戻って、苦しみを取り除いてあげたいと思った」
「だから馬鹿だというんだ…。おれはお前に、特にお前にはおれに成り代わってなど欲しくない」
断言する彼の言葉がベルゲングリューンの心に突き刺さり、胸の筋肉が震えたのを彼は気づいたに違いなかった。顔をあげてベルゲングリューンの胸を拳で叩いた。
「あの朝、会議場でおれを見てお前は嬉しくなかったのか? お前がちゃんと自分の姿に戻ったところを見て、おれは…」
あれほど嬉しかったことはなかった。彼が本来の彼に立ち戻り、その瞳に彼の魂が宿るのを見るのは最上の喜びだった。彼もまた、ベルゲングリューンの中に本来の魂が存在することを彼が認めた時、それは彼にも同じ喜びをもたらしたのか。
「だからおれはどんなに自分が苦しもうとも、本来のお前らしいお前を目の前に見て、感じたい。鏡の中に映るお前などではなく」
そう言ってベルゲングリューンの胸を叩くので、その手をそっと両手に包み込んだ。彼が額を胸に擦り付けながらつぶやく。
「おれの苦しみはおれだけのものだ。誰かに引き受けて貰えるようなものではないし、お前に押し付けるつもりもない」
きっと彼は子供の頃、誰かに苦しみを引き受けて欲しかったはずだ。ところがその望みは叶わず、彼は一人で強くならなくてはならなかったのだろう。しかし、彼は苦しみが存在することは認めながらも、詳しい事情を打ち明けるつもりはないようだった。それこそが彼の孤高の気高さとなり、彼を彼たらしめているのだ。

そうだとしても、ベルゲングリューンにも出来ることが一つだけあった。
ベルゲングリューンは彼の手を握ったまま彼を胸に引き寄せた。
「ではせめて、ここにその苦しみを分かち合いたいと思っている者がいることだけは、覚えていてください」
「とても忘れられん。その証明のために自分の身体を捧げるようなことをする、馬鹿な男のことは」
彼は小さく笑うと、ベルゲングリューンの胸に鼻先を何度かこすりつけた。その可愛らしい仕草のせいでベルゲングリューンの鋼鉄が息を吹き返し、今だに彼の中に入ったままであることを思い出させた。思わず腰が動いて彼を突くと彼が息を飲んだ。彼はお返しにきゅっと鋼鉄を締め付けてきて、今度はベルゲングリューンが喘いだ。
「…ああ、ああ…。覚えていよう。だが、そのためにはいつも思い出させてもらう必要がある。そうだろう? ハンス?」
そのからかい交じりの呼びかけ方には含みがあり、ベルゲングリューンはそれに答えることをもう不敬だとか、不躾だとか思わなかった。
「もちろん、オスカー」
その名前を口にした途端、彼の目から一筋の涙が常夜灯の灯りを受けて輝きながら流れ、枕を濡らしたのが見えた。
「オスカー…?」
「…何でもない。お前がここにいるのだから、もう、それだけでいい…」
彼はベルゲングリューンの胸に再度顔をうずめると目をつむり、まるでなんの前置きもなく眠ってしまった。安心して良くお休み、などと重ねて言う必要すらなかった。

翌日、十分な睡眠を取りすっかり生まれ変わった気分で艦橋に立った二人は、前夜トリスタンが謎の閃光に包まれるという怪奇現象に見舞われたことを知った。周辺の艦からもその様子を目視出来たとの報告があった。しかし、映像には何も映っていないにもかかわらず、同時期に艦の計器には瞬間的な異常値が計測されたため技術士官たちは頭をひねった。結局、原因は特定できずにイゼルローン回廊の異常な現象の一つとして片付けられた。
参謀長ベルゲングリューン中将は、閃光が起きた瞬間に何があったかを推測し、この事実に気づいた彼の恋人と共に密かに赤面した。そして、もうこの現象が及ぼす変化を望むことは決してない、と確信していることを喜んだ。


 

ENDE
 

​面影を抱きしめて

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