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ワインの酔いに霞んだ思考のまま、互いの衣服をゆっくりとはぎ取った。ミュラーはまるで恭しいともいえる仕草で、ロイエンタールの軍服の上着を畳んだ。次いでシャツを頭から脱がせた。ロイエンタールの視界が実用本位ながらまっさらのコットンのシャツに隠れている間に、さらけ出された胸に相手の唇を感じた。頂きを口に含まれて、すでにそれがピンと立ち上がっているのを感じた。

疼く胸を温かい口に含まれ、飴玉のようにしゃぶられるのはとてもいい気持ちだった。

シャツから顔を出すと、やはり上半身裸のミュラーが胸の上に屈みこんでいて、目が合うと気恥ずかしそうに笑った。

その身体は今はようやく癒えた骨折の後を隠している。肋骨の辺りをその折れた場所はどこかと探るように人差し指で線を引くようになぞった。くすぐったいのか身をよじってロイエンタールの手をそっと掴んだ。

「もう痛みもありません。好きなように…その…、触ってください」

ミュラーの手に誘われるままに、ロイエンタールは両手で筋肉のついた腹から胸の辺りまでを掴むようにして撫でた。軍服の上から見るよりもがっちりしていて、もしかして彼自身より逞しいかもしれない。この強靭な肉体に守られていたからこそ、この度の敗戦―惨敗を―耐えることが出来たのかもしれなかった。

「…退院後のリハビリに励んだようだな。立派な筋肉だ。とは言え、あまり激しくやるとヒビが入るかもしれん」

「退院後すぐは本当に筋肉が落ちてしまって…。もう1か月前だったら誘っていただいてもとても…」

「脱ぐ勇気はなかったか?」

ロイエンタールはくすくす笑うとミュラーを自分の方へ引き寄せた。イゼルローン要塞攻略を狙った帝国軍は完膚なきまでに敗れた。重傷を負いながらも、敗残の生き残りの将兵を連れ戻ったミュラーの手腕を同僚たちは賞賛した。大人しげな風貌からはうかがい知れぬ力を秘めていることを誰もが感じた。ビッテンフェルトが評して「根性がある」、と言った言葉は、独創性はないが、最も端的にこの男の性質を表していると言えた。

引き寄せられて、ミュラーは触れることすら恐れるように震える手で、ロイエンタールの肩から腕を撫でおろした。

「あなたはどこもかしこも綺麗だ…。小さな傷もない。滑らかだ…」

ところがその時、ロイエンタールの二の腕に切り傷の後のようなものを見つけて、「…ここに」と嬉しそうに言うと、その個所を舐めて傷の盛り上がりを確かめた。

「傷くらいあるさ…。骨折の跡もある。傷もないなどと言われるのは、乱戦をも厭わず戦ってきた軍人として不名誉な謂いだな」

「すみません。あなたが剣技においても優れているのは知っています。それであればなおさら、傷を負うこともないほどお強いのだという証拠ですね」

ミュラーは「素晴らしい…」とつぶやきながら、唇でロイエンタールの身体に触れ続けた。胸からロイエンタール自身の肋骨、筋肉に覆われた腹をたどって唇が動き、臍に舌が滑りこんだ。ロイエンタールは無意識に腹がひくひくと動くのを感じた。いまだに履いたままのズボンが窮屈だった。早く解放してほしい。だが、言葉には出さず、手を伸ばして自分のものではなく、ミュラーのズボンのベルトに手をかけた。

我ながら手元が慌てているのに苦笑しつつ、金具の音を立ててベルトを緩め、ミュラーのズボンと下着の中に両手を滑り込ませる。出っ張った腰骨を撫で、その骨の縁に沿って鼠蹊部をマッサージするように下に動かす。すると、両手の中にすでに張り切った肉を感じた。

「温まっているな…」

「あなただからです。あなたを前にしてはどんな男も熱くなってしまう…」

そのミュラーの手もロイエンタールのベルトを外し、ズボンを下着と共に引き下ろした。目の前に現れた花芯は赤く、頼もしいまでに太く、ミュラーが来るのを今か今かと待っていた。

うっとりとして見つめ続けるミュラーの視線に耐えつつ、ロイエンタールは心に叫んだ。

―早く…!!

彼の白い太腿はミュラーの手によってあられもなく開かれた。ロイエンタールはその瞬間、彼の秘めた個所が無防備に晒されて、ふと、心細さを感じた。だが、不安を越えた本能的な欲求が、今の自分の姿を恥じるべきではないことを告げていた。震える太腿が羞じて閉じたがるのを必死でこらえた。

ミュラーがもし、冷静な表情を保ったままだったら、彼の不安はますます募っただろう。だが、その熱に浮かされたようなうっとりとした表情は、これからの時間の甘さを予感させた。その期待にロイエンタールの花芯から透明な雫が滴った。

「…ああ、素敵だ…。待っていてくれているんですね…」

唇がその雫を追って花芯に触れた。ロイエンタールが声もなく息を吸った。ミュラーの手はロイエンタールの両の太腿をがっちりと押さえていた。唇だけでその中心にそびえたつ肉の柱を愛でている。時に舌だけで隈なく舐め、時に唇にその襞のある肉を挟んだ。

ロイエンタールはただ両足をつっぱって甘美な責め苦を受け入れた。飾った言葉遣いなどせぬこの男の口が、今は思いがけず巧みに動いた。ロイエンタールの花芯は今や張りつめ、もっと強い解放を求めていた。

今こそ、男を待つだけではなくこちらから攻めるべき時だった。ロイエンタールはその白い身体を起き上がらせ、今度は彼がミュラーの身体に接吻の雨を降らせた。あらゆる柔らかい敏感な場所を食み、舐めつくして、ミュラーに絶え間なくうめき声をあげさせた。

彼の優美な細い唇がとうとう、ミュラーの肉の柱をとらえ、口内奥深くまで含んだ。片手ではつかみきれぬかと思うほど、ミュラーの引き締まった体躯に見合った、大きく太いそれを、ロイエンタールは果敢に咥えこんだ。両手の力を借りつつ、頭を上下に動かしてその先端を喉の奥に感じるほど、口の中いっぱいに含んだ。ロイエンタールの口の中は男の味わいでいっぱいになった。

突然、それがポンと音を立てて彼の口から外された。荒い息をしたミュラーが必死の形相でロイエンタールを押しのけたのだった。

それはこれ以上はないほど鋼鉄のように固く、火に鋳れたように赤く変化していた。これを自分の中に受け入れるのだと気づいて、ロイエンタールは足の指先まで熱くなった。もうすでに、その太い幹に貫かれたかのように感じた。

だが、それはあまりに期待が大きいがための錯覚に過ぎない。ぜいぜいという荒い息遣いがロイエンタールの唇の上に降って来た。気づく間もなくミュラーの舌が唇の間に突進してきて、彼の息を奪った。接吻の合間にもミュラーは汗をかいて、目を大きく見開いて、荒い息をしていた。その両手はロイエンタールの肩を掴んで、甘い痛みを感じさせた。

―ああ、来る…!!

口から離れて行ったミュラーの唇は、ロイエンタールの花芯の根元を強く咥えた。ロイエンタールは敏感な場所への直接的な刺激に大きな声を上げた。もっと柔らかくて、別な場所への侵入を待ち望んでいたから、余計にその攻撃に驚いた。細口瓶からワインが流れるかのように、彼の花芯から滔々として白い液体が吹きこぼれた。

ミュラーは顔にかかった白いとろりとしたものを嫌がりもせず手に受けた。ロイエンタールの両足を肩に担ぎ上げ、花芯の根元から唇を離さずに食むようにして下におろし、蕾に辿り着いた。蕾の周囲を舐め、太腿をきつく掴んだ親指で、その周辺を揉んだ。

その屈辱的な格好であっても、ロイエンタールは逆らうことは出来なかった。次にどんな快楽が訪れるか、きっと期待通りであればそれは…。その時、強く会陰を揉まれ、そのもどかしい刺激にもかかわらず、彼は再び花芯から白くとろりとしたものを拭きこぼした。

ロイエンタールも、ミュラーも互いに荒い息をしながらも、それぞれの肉の柱は天を仰いで未だに固いままだった。

その時担ぎ上げられていたロイエンタールの腰がゆっくりと下ろされた。ベッドの上に背中をつけたロイエンタールに、ミュラーがのしかかるようにして屈みこんだ。のしかかる男の目は血走って、ちらりと見たミュラーの陰茎はまっすぐロイエンタールに伸び上っていた。ここまでよく持ちこたえたと賞賛したくなるほど固く立ち上がっていた。

今こそ来ると、ロイエンタールはぎゅっと目をつむった。

だが、ミュラーの唇がそっと胸の上に落ち、待ち望んだ肉の柱はロイエンタールの腹の上を滑った。

「ミュラー!!」

来いだの、入れろだのと言って、自分が切羽詰まっていることを知られたくはなかった。だが、ミュラー自身も天井を仰ぐほどに張りつめていながら、あまりと言えばあまりと言えた。

さすがに大きな息を継ぎながら、ようやくミュラーが答えた。

「…なんでしょうか」

「卿は…、その立派なやつを何とかする気はないのか」

ミュラーはロイエンタールが心配になるほど真っ赤な顔になった。

「あなたのこの美しい身体に相応しいのは接吻だけです…。それ以上、私の欲望で汚したくない…」

如何なる時にも揺るがぬ冷静さを誇るロイエンタールといえど、今の彼はまさしく切羽詰まった欲求により爆発寸前だった。

「…おれを焦らすのか…、卿は…」

「いえ、そんな…。ただあなたのこの身体を賞賛し尽したい…」

すうっと熱がひいていくのを感じつつ、どうしてもロイエンタールは聞かずにはいられなかった。

「卿はおれが欲しくないのだな」

「とんでもない…! あなたが欲しい!! 嘘ではありません!!」

確かに、ロイエンタールの前に膝をついて両腕を開いた体の前に、ミュラーは誇示するようにその欲望をさらけ出していた。ロイエンタールはそれをちらりと見やりつつ、起き上がった。こうなってははっきりと言わねばなるまい。

「では、来い」

驚くミュラーの腰を両足の間に強い力で引き寄せ、その張り切った肉の柱を遠慮なくつかんだ。ミュラーはあっ、と言ってよろめくようにロイエンタールの胸の上に倒れ込んだ。

「…さあ」

その艶めかしく紡がれた唇から、赤い舌が覗き、それを見たミュラーが息を飲んだ。むしゃぶりつくようにロイエンタールの唇に口を押し付け、その口の中から舌の根を吸い込まんばかりに吸い付き、強く舌を絡めた。自分の一番の秘密の場所にミュラーの手を引き寄せ、その指が蕾に触れるのを感じつつ、ロイエンタールはミュラーの熱く、太く、固い肉を愛おしむように撫で…。

「駄目です!!」

ミュラーはロイエンタールの手を振り切った。

「何が駄目です、だっ!!」

今度こそ、ロイエンタールは爆発した。耐えがたい欲望のためと言うより、彼を受け入れることを否定されたが故の叫びだった。彼の花芯からは驚くほど急速に熱がひいた。

「あなたは私の最上の喜びです。最後の望みです…!」

「何をたわ言をぬかすか!」

だが、ミュラーの表情は真剣だった。

「あなたを賞賛し、崇めたいのです…! おこがましくもあなたの奥深くに入り込むには私はあまりに未熟すぎます…!」

ロイエンタールの身体を見て、ミュラーはたびたび褒め称えた。焦らして欲しがらせるほど間接的な愛撫を彼に繰り返し与え続けた。それがすべて、最終的な欲望を達成するための手順ではなく、ただひたすらに彼を崇めるためだけの行為だったとしたら…。

二人がベッドで服を脱ぎ合ってから小半時、ロイエンタールはミュラーの唇により甘くも苦しい責め苦に責められていた。過去の恋人たちとの経験から、その責め苦が苦しければ苦しいほど、その後の解放が心地よいものになると知っていた。それはすべて彼と恋人たちとの間において信頼ともいえるほど、決まりきった道筋だといえた。

だが、ミュラーがたどる道は彼と同じではないらしい…。

ロイエンタールは優しくミュラーの頬を撫でた。

「おれは卿が未熟だとは思っていない。ここで子供のようにためらってみせて、おれを落胆させたいのか?」

「いえ…、でも、あなたにお会いしてから、あなたはずっと私の女神のようでした…」

「おれは男だが」

ミュラーはロイエンタールの皮肉は聞こえないようだった。

「そしてこれまでそうだったように、これからもあなたは私を導く女神となるでしょう。私はその後をついて行くだけ…」

小さくため息をつくと、ミュラーはようやく顔を上げて、はにかむようにロイエンタールを見た。

「今まであなたのこの身体がどれだけ素晴らしいものか、想像するだけでした。それが想像通り…、いえ、想像以上のものと知り、今は言葉もありません…」

その感動がこの静かな男を饒舌にさせているらしかった。ミュラーの手が再びロイエンタールの胸に走り、その頂きの粒のような赤い果実を摘まんだ。

「先ほどは唇だけで、あなたを崇めて、決して手は触れまいと耐えていました。最後に少し使わずにいられませんでしたが…」

ふがいなさを恥じるように苦笑を見せて首を振って、ロイエンタールに微笑んだ。

「今度は手だけでいいですか…?」

すでに身体中が敏感になっているところに、ミュラーの両手ははっきりとした愛撫を施し始めた。やや静まっていたロイエンタールの花芯はたちまちのうちに立ち上がった。だが、ロイエンタールはその快楽に流されまいとミュラーの手から逃れようとした。

「手で弄りまくるだけ弄っておきながら、最後まではいかないのだろう…!」

「それがあなたを愛する最上の方法です」

「卿の方こそ、そいつを解放させずにいては苦しいだろう! おかしな意地を張るな…!」

ミュラーの手がロイエンタールの快楽に弱り切った花芯をしっかりと握りこんだ。

「この忍苦に耐えてこそ、あなたに対する私の愛が真実であることが示されるのだと、信じています…!」

「馬鹿な真似はよせ…! そんなところに根性を見せるな! ベッドの上は我慢大会ではない…!」

ロイエンタールは何とかしてベッドから逃げ出そうとした。彼の両足はミュラーにしっかりと抱えられて、上半身だけがベッドから転がり落ちた。

「…危ない…! だめです、一緒に私たちの至高の愛のために耐えてください…。そうしてこそ、あなたにも私の愛の深さが分かるのですから…!」

「知りたくもない…! おれは卿が思う以上に単純な男なんだ…! 卿の愛などいらん…!!」

だが、ロイエンタールの引き締まった尻に注意を向けているミュラーには、その喘ぎながらつぶやかれた言葉は聞こえないようだった。

「あなたの側にいられない時も、あなたのこの身体を崇められるように、写真にとってもいいですか…?」

それは自慰の際の愛玩品にするという意味とは思えず、写真に映し出された裸身に熱烈な接吻を浴びせるミュラーの姿が、ロイエンタールの沸騰した脳裏に浮かび上がった。

「実は私は写真が趣味で…。とても綺麗に撮る自信があります…。しかも、こんなに滑らかで、つややかで、引き締まっていたら、どうやっても綺麗にしか撮れません…」

敏感な蕾の付近を盛んに刺激しながら、熱に浮かされたような言葉がロイエンタールの耳朶に吹き込まれ続けた。

「…いやだ…ぜったいやだ…駄目だ…いいかげんにしろ…」

力ないロイエンタールのつぶやきが果てるとも分からぬ、終わりなき愛撫のうちに漂い続けた。

 

 

Ende

コンタンプラシオン

コンタンプラシオン(裸身顕示)

中世において(主にプロヴァンス地方)、貴婦人が彼女を崇拝する騎士に対して報いる最終的な方法のひとつ。

その儀式のことをコンテンプラツィオーネと言う。

貴婦人の寝台に侍して脱衣を手伝わせ、その裸身への接吻を許すことを、「愛のミサ」と称してたたえた。

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